現代美術のシリーズ企画「アートドキュメント」の29回目は、彫刻家の久保寛子(1987年、広島県生まれ)の個展を開催します。
ブルーシートや農業用ネット、鉄など身近な工業製品を用いて、人間の身体や神話上の生き物をモチーフに、軽やかな彫刻作品を手掛けてきた久保。古代の創作物からインスピレーションを受け、現代の営みと結びつけた彫刻作品を発表しています。
本展では、建築資材である陶タイルや、久保の住む東総地域の粘土など新たな素材を使った新作シリーズをはじめ、美術館のあるあわら市に残る歴史や民話を手がかりに、森の自然と呼応する野外作品にも挑戦します。
太陽と月、古代と現代、農耕と工業、女性性と男性性―。これらをテーマに、対照的でありながら、相互に不可欠な要素が共存する空間は、今を生きる私たちの生の感覚を喚起することでしょう。たゆまず創作し続ける、新進気鋭の彫刻家の試みをご覧ください。
1987年広島県生まれ。千葉県拠点。
テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。
先史芸術や民族・民俗芸術、文化人類学などにまつわる学説のリサーチをベースに、ワイヤーメッシュや農業用シート、防風ネットなどの工業製品を用いて彫刻作品を制作している。自然の脅威や遺物の破壊と再生、周縁化されてきた女性の表象などをテーマに、神話や祈りがかたちをなす偶像や、人々の暮らしの中から生まれた実用品に宿る美について、久保は作品を通じて現代的な視点から再考を促す。Casa Wabiレジデンスアーティスト(2025年)、広島文化新人賞(2022年)、六甲ミーツ・アート公募大賞(2017年)受賞。KAMU KANAZAWA(石川)、おおさか創造千島財団、株式会社 IZAK(富山)などに大型作品が収蔵されている。2017年より広島で「オルタナティブスペース コア」を運営している。
2025年春、メキシコを訪れた。2週間あまり滞在したメキシコシティでは、スペイン帝国が植民地に与えた強烈な影響を目の当たりにした。文字通り、ヨーロッパ風の街並みの下に滅ぼされたアステカ文明の残骸が眠っていた。歴史が人々の複雑なアイデンティティと文化を生み、街は独特の彩りと熱気を帯びていた。
残りの6週間ほどは、小さな村にあるアーティストのためのレジデンス施設に滞在した。海に面した、電気照明の抑えられた空間で、太陽や星、月の動きを身近に感じる日々を送った。オアハカの粘土を、椰子の実を燃料にして焼く陶芸制作。月が真っ赤に染まる皆既月食、老若男女が集い朝まで踊る村の祭り、無人の絶景ビーチやバイオルミネセンスで光り輝くマングローブ。日夜の魅惑的な光が今でも記憶の中で煌めく。
今回の個展のために作られた新作は、その2ヶ月間の体験にインスパイアされている。日本での長い生活のなかで忘れていた、天体と大地を身近に感じ生きること、異文化の混交、純粋な制作の喜び、芸術を通して太古と繋がっている感覚。それらの体験が作品に新たな彩りと造形を与えた。
タイトル「青の太陽 緑の月」は、メキシコでの生活で得た天体のイメージと、自身がこれまで扱ってきた「農耕」と「工業」のテーマ、さらにそれらの現場で使われるプラスチック素材の色彩を重ね合わせたものである。
太陽と月を展示のテーマに据えた時、土ー天体、光ー暗闇、人工ー自然、古代ー現代、女性ー男性、聖ー俗といった、二元論的な概念を軸にした作品と展示構成のアイデアが生まれた。また自身の過去作の中にも、こうした構造が一貫して内在しているように思われた。
私にとって制作とは、研究とフィールドワークによって物事を考察するプロセスであり、文化人類学の営みに近いものと捉えている。学術と美術が異なるのは、言語ではなくイメージによって思考を提示することだ。イメージは、時と場所を隔てた他者を接続する。私はこれからも制作という行為を通して、世界との関係を探り続けていきたいと考えている。
久保寛子と共に展覧会を巡ります。
あわら市郷土歴史資料館で、地域の縄文文化を体感しよう。
本展の観覧券提示等で、本展オリジナル特典をプレゼント!
① 縄文ピアスの展示を観覧
② 撮影スポットで記念撮影
③ 本展の観覧券提示
※観覧券1枚につき、お一人様1回限り